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小川洋子さんの新刊本


■ 最果てアーケード    講談社    (2012年6月)
■ みんなの図書室    PHP研究所 (2011年12月)
■ 小川洋子の「言葉の標本」   文芸春秋  (20011年9月)
■ 人質の朗読会    中央公論新社 (2011年2月)
■ 妄想気分    集英社 (2011年1月)
■ 小川洋子対話集 文庫版 幻冬舎(2010年8月)

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 まぶた 
 

著者: 小川洋子
出版社: 新潮社 
サイズ: 文庫本
ページ数: 221p
発行年: 2004年
価格: 420円
わたしの感想文】
8編からなる短編集です。
小川作品を読んでいくと、現実にはありそうもないことが描かれていて、この短編集でもいくつか出てきます。しかし、現実にはありそうもない話は常識的には、不気味な、怖い、時には残酷な印象を残しますが、私は何故か「夢を見た」時のことを思い出します。「夢の世界」では、とんでもない、思いもしなかったことや、全く理不尽な夢をみることがよくあります。そこには、わたし達が現実の場面では、意識していない、しかも説明もできない無意識の世界が横たわっていることを気ずかせてくれます。小川作品では、現実と非現実の両方を境目なく往来している感覚におそわれます。印象に残ったものは次の3編でした。

「まぶた」では、15歳の少女である主人公が、正体不明の怪しげな中年男Nと恋をして島にある彼の家で密会する。この中年男Nが詐欺師まがいの実に不思議な人物で、おもわず、笑ってしまいます。2人の様子をじっと見守るハムスターは病気でまぶたを切り取ってしまっていて、まぶたがない。小川作品によく出てくる身体への一部への異常なこだわり、今回はまぶたなのです。

「バックストローク」、この短編の異常な内容に、不気味さと悲しみ、切なさがひしひしと伝わってきます。オリンピック強化選手に選ばれる程の水泳の才能を持った弟。弟に全力で尽くす母親。静かに見守る私。母親が自分の家の庭にプールを作った後に事件が起こる。左腕が耳に沿って伸ばした格好で、左腕が上がったまま動かなくなり、水泳はおろか、家族も崩壊に向かっていく。まさしく、夢に出てくる世界である。崩壊、死と引き換えに弟と私のささやかな生がさりげなく描かれいます。

「リンデンバウム通りの双子」、私がこの短編集の中で一番好きになった短編でした。自分の小説を丁寧に翻訳してくれていたハインツというドイツ人。住所だけをたよりにハインツのアパートを訪ねてみると、5階に双子の弟カールとひっそり暮らしていた。二人とも独身で相当老いていて、カールは足が不自由で外出ができない。私にできることは何かないかと思い立ち、カールを背負って外出することとなった。外出先ではこの老双子の思い出が詰まっているカールの店だった花屋、父の元医院などを訪れ、胸いっぱいになって帰宅します。この小さな挿話が、とてもいとおしく、感動的で、物語の愉しみを存分満喫できました。これは名著「博士の愛した数式」より、数年前の作品ですが、同じ流れにあるように思います。小さな挿話から始まる物語が人に与える偉大な力を感じます。
  【内容情報】(「BOOK」データベースより)

15歳のわたしは、高級レストランの裏手で出会った中年男と、不釣合いな逢瀬を重ねている。男の部屋でいつも感じる奇妙な視線の持ち主は?―「まぶた」。母のお気に入りの弟は背泳ぎの強化選手だったが、ある日突然左腕が耳に沿って伸ばした格好で固まってしまった―「バックストローク」など、現実と悪夢の間を揺れ動く不思議なリアリティで、読者の心をつかんで離さない8編を収録。

【目次】(「BOOK」データベースより)

飛行機で眠るのは難しい/中国野菜の育て方/まぶた/お料理教室/匂いの収集/バックストローク/詩人の卵巣/リンデンバウム通りの双子

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プロフィール
HN:
つぶやき博士
性別:
男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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