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小川洋子さんの新刊本


■ 最果てアーケード    講談社    (2012年6月)
■ みんなの図書室    PHP研究所 (2011年12月)
■ 小川洋子の「言葉の標本」   文芸春秋  (20011年9月)
■ 人質の朗読会    中央公論新社 (2011年2月)
■ 妄想気分    集英社 (2011年1月)
■ 小川洋子対話集 文庫版 幻冬舎(2010年8月)

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 やさしい訴え
 

著者: 小川洋子
出版社: 文芸春秋社 
サイズ: 文庫
ページ数: 285p
発行年: 2004年
価格: 550円
わたしの感想文】
気高く、美しい雰囲気を醸しだす長編で、タイトルの”やさしい訴え”はチェンバロで聞く曲の題名です。
東北の、美しい林の中に囲まれた村を舞台にした、3人の物語。小川作品には珍しい固有名詞がついた登場人物は、主人公の”瑠璃子”、チェンバロ作りの”新田”さん、そしてその女弟子”薫”さん、新田さんをめぐる、いわば、三角関係がせつなく、美しく描かれている。「博士の愛した数式」、「薬指の標本」は映画化されましたが、この作品も映画化されたら、美しい映像になるなあ!とふと思ってしまいました。

主人公の瑠璃子は文字装飾のカリグラフィーという珍しい仕事をしている。眼科医の夫とうまくいかず、結局は離婚すことになるが、夫から逃れるように林の中の別荘に身を隠す。その村で、チェンバロ作りの新田さんと弟子の薫さんに出会う。新田さんはピアノ弾きの優れた才能を持ちながら、人前では弾けない致命的なトラウマのため、ピアノを断念し、こだわりのチェンバロ創作を行っている。薫さんは過去に悲惨な死を遂げた恋人の傷を背負っている若い女弟子です。

3人をめぐる関係は、美しい林、湖、樹木、鳥の鳴き声、愛犬などを背景して、美しく、静かに、愛おしく、展開する。瑠璃子が、夫とは全く違うタイプの新田さんに寄せる愛は狂おしく、強烈であるが、抑制の効いた描写は、やはり小川作品ならではという気がします。この種の三角関係の恋愛物語は昔からヤマほどあり、起伏激しい感情表現や性愛描写を読ませるようになっていますが、この作品は不倫オンパレードのストーリーなのに、小川流になると、何故か、いやらしくなく、官能的ではあるが、詩情的となってしまいます。

新田さんと薫さんとの愛情関係に、主人公の瑠璃子が割り込んで、本心は奪いたいという、いわばエゴの愛の描写が濃密に描かれる。瑠璃子は女弟子、薫さんとも親しいのだが、内心では、嫉妬が渦巻いており、新田さんへの愛との間で苦悩する。新田さんと薫さんの愛の関係は、故意的に淡々としか語られておらず、本当のところは分からないようになっているのが憎らしい演出です。

最後は新田さんとの別れとなります。新田さんが作ったチェンバロに”Y.NITTA”のカリグラフィーを刻むことで、薫さんへの復讐を果たしたことにもなるのですが、主人公瑠璃子は自分自身の物語の中に、鮮明な記憶として残したかったのだろうと勝手に解釈してしまいました。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

夫から逃れ、山あいの別荘に隠れ住む「わたし」が出会った二人。チェンバロ作りの男とその女弟子。深い森に『やさしい訴え』のひそやかな音色が流れる。挫折したピアニスト、酷いかたちで恋人を奪われた女、不実な夫に苦しむ人妻、三者の不思議な関係が織りなす、かぎりなくやさしく、ときに残酷な愛の物語。 


 

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プロフィール
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つぶやき博士
性別:
男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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