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小川洋子さんの新刊本


■ 最果てアーケード    講談社    (2012年6月)
■ みんなの図書室    PHP研究所 (2011年12月)
■ 小川洋子の「言葉の標本」   文芸春秋  (20011年9月)
■ 人質の朗読会    中央公論新社 (2011年2月)
■ 妄想気分    集英社 (2011年1月)
■ 小川洋子対話集 文庫版 幻冬舎(2010年8月)

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 密やかな結晶

著者: 小川洋子
出版社: 講談社
サイズ: 文庫
ページ数: 401p
発行年: 1999年
価格: 720円
わたしの感想文】
長い、長い小説でした。一つづ、この世のモノが消滅していく過程を時には、くどい程、しかし、丁寧に、たっぷりと描かれています。読んでいるうちに、昔呼んだ小松左京の「日本沈没」を思い出しましたが、作品は決定的に違っていました。ドラマチックな展開は何一つなく、静かに静かに、消滅が進行する点と、すぐには理解しがたい奇妙な”秘密警察”の登場です。どうしてこのような設定となっているかは、あまり詮索する必要もないでしょう。

小説を書いている”私”、担当編集者の”R氏”、どんなことでもやってしまう”おじいさん”の3人を中心に島の消滅の模様が静かに、美しく描かれる。R氏は無くなったモノ、物語の記憶をいつまでも記憶しているため秘密警察に目をつけられる。R氏を地下室にかくまう二人。
母は消滅したモノの記憶を失っていなかったため、記憶狩りに連行されて、もういない。リボン、香水、切手、バラなど小さいモノから図書館みたいな建物まで、ひとつづつ消えてゆく。例えばバラが消滅すると人々は、川、海に流し、枝は燃やす。そして2~3日するとバラのことを忘れ、何事もなかったように暮らす。人間の肉体も足、腕、手が徐々になくなり、最後は声だけとなり、”さようなら”の声を残して消えていく。虚無的で、なんだか危険の匂いが漂います。

最後には、さようならの言葉を残して”私”は消滅し、地下室にかくまっていたR氏が記憶を残したまま、外の世界に戻っていく。
小川洋子がこの作品であくまで固執する”消滅とは?、記憶とは?、物語とは?”何だろうと考えてしまいます。この作品では、数年で、すべて消滅するのですが、考え方を変えれば、この地球だって、数千年~数億年のレンジで見ると消滅するかも知れない。すべてのモノも人間もいずれ消滅する。その当たり前のことをわたし達は日常すっかり忘れていますが、消滅と同時に何かが残る、あるいは残したい、別の何かに生まれ変わる、といった真実が隠されているのではと感じます。

ただひたすら消えていく、そして、かすかに何かが残る(何なのかは分かりませんが)、空しさ、哀しさなどが、いつもの小川流の静かで美しい筆致で描かれたこの作品。少々長すぎるとも感じましたが、なんとも説明できないその魅力、間違いなく、小川さんの会心作であると思います。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。

 

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プロフィール
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つぶやき博士
性別:
男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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