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小川洋子さんの新刊本
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小 川 洋 子 の 小 説 作 法 | |
「美しさ」が基調 | 数多くの小川洋子作品の底に流れているベースは明らか に「美しさ」である。美しい小説である。 悪意、毒が盛り込まれている小説でも、美しく、透明感 がある。小説によくあるドロドロとした生臭さは全く出てこな い。「偶然の祝福」の短編「キリコさんの失敗」や「博士の愛 した数式」はメルヘンとは一味違う心地よい美しさが読者に 伝わってくる。全体に流れる美しさと心地よさが小川洋子の 魅力である。 美しさへの追求は小川洋子さんにとって数学や科学への 興味とつながっている。数学がもともと美しさが基調である ので必然だったに違いありません。 |
隠された毒、不気味さ | 例えば、妊婦した姉に対する生理的な嫌悪を感じる妹 を描いた「妊娠カレンダー」。農薬に汚染されている可能性 のあるアメリカ産のグレープフルーツジャムを、危ないかも しれないと思いながらも姉に食べさせ続ける。この不気味 さ、怖さがたっぷり盛り込まれている。女性の中に潜む母 性に対しての違和感を不気味に描く。 このような隠された悪意、不気味さ、毒が多くの小川作品 に出てくるのがもう一つのの特徴でもある。これを好みと するか、不快とするかは読者次第である。 |
モーツアルトのように | 多くの作家は執筆前にテーマを決めて取材、文献調査 を重ねてストーリーを練り上げ、ストーリを組み立て最後 の結末を用意して執筆にとりかかる。しかし、小川洋子 さんはこのようなスタイルをとらない。「アンネ・フランクの 記憶」、「博士の愛した数式」では確かに事前の取材を 行っているが、これは数少ない例外である。 ある風景、場面を経験したことをイメージに浮かん時、 それを素直に言葉に置き換えいく。ストーリーも結末も イメージに浮かんだままに展開していく。 しかし、イメージをそのまま文字にしたら、独りよがりと なり、素人の作品となってしまう。小川洋子さんはやや 冷静に観察し、文字化する際にまた、文字が新たな 展開を生んでいく。 なので、最後の結末も書き終わった時に初めてわかる スタイルとなっている。小川さん自身は最初の構想通り の小説になった小説はつまらない失敗作と言い切って いる。このような創作スタイルはいわばモーツアルト風 である。モーツアルトは天才と呼ばれ、努力して苦闘し て作曲したのでなく、神から聞こえる天の声を音符にして 、音符から派生するイメージを膨らまして作曲したと言わ れている。小川さんの執筆スタイルもこれに通じている ように思える。 |
決して突出しない 演出 |
小川さんの作品には、長編小説や推理小説に出てくる 大きな大げさなクライマックスとか、ヤマ場、ドラマチックな 結末は決して出てこない。 ラブシーンの場面ではたいてい2行以内で終わってしまう。 このため、大ベストセラー作家にはなりえず、どちらかと 言えばマニアックな読者に受けが良く、しかし、一旦ファン になったら、中毒となってしまう不思議な作家と言える。 突出しないのは、ストーリだけでなく、登場人物、風景、 道具すべての点であるモノが際立って目立ったり、強烈 な印象を持つことはなく、抑制を効かしてある。。この点、 通常の小説では逆に強烈な印象を持つように、主人公を 際立たせようよう執筆するのと対極にある。 わたしの経験では、このようにドラマチックな展開でない ため、読んだ小説の中身を忘れてしまうことがしばしばで、 しかし、2度読んでも読んでいるその瞬間はすっかり惹か れてしまう不思議な感覚を味わっている。 |
とんでもない卓抜な 題材 |
凡人には想像さえできない題材〈ネタ)を提示してくれる のも小川洋子さんの魅力の一つである。「薬指の標本」、 誰も薬指を標本にするなんて思いつきもしなし、挙句の 果て楽譜の音まで標本にする始末である。この文庫本 に出てくる「六角形の小部屋」の短編では、六角形真鍮 製の小部屋の中ででただ一人語るだけの部屋が舞台で ある。このような珍奇な商売があるとは思えないが、なぜ か引きずりこまれてしまう不思議さがある。 |
主人公の名前が つけられていない小説 |
普通の小説では名前が付けられた主人公が登場する。 山崎豊子「白い巨塔」では財前五郎、東野圭吾「容疑者x の献身」では湯川学。小説のタイトルにも主人公の名前が 使われるくらいである。夏目漱石の「三四郎 」など。 ところが、小川洋子さんの小説に出てくる主人公は一部の 例外「ミーナの行進」などを除き、ほとんど小川作品には 固有名詞の名前はつけられていない。「薬指の標本」 では指を負傷した若い女性、妊娠カレンダーでは姉妹 、「博士の愛した数式」では家政婦という風に表現され、 「私」、「わたし」の一人称で統一されていて、名前はつけ られていない。しかし、傍をかためる人物、恋人、友達、 同僚、家族にはすべて名前がつけられている。 「薬指の標本」では標本技術師は弟子丸と言ったように 名前がつけられている。 なぜ、主人公に名前をつけないか?ずっと疑問だった。 どの作品にも名前がないので、明らかに意図的である。 主人公だけを突出させないという小川流に理解はでき ますが、いまだに良くわかりません。 小川洋子さん、機会があったら、この疑問に答えて下 さい。お願いします。 |
境界線がない | 小川さんの小説でしばしば出てくるのは、生と死、現実 と幻想、流れ、風景などに境界線がなく連続したものと捕 らえているふしがある。 例えば、「冷めない紅茶」ではあの世とこの世に境界線が なく、登場人物は何食わぬ顔で行ったり来たりしている。 「貴婦人Aの蘇生」では動物の剥製が主題になっている が、剥製は死んでるようで、死んでいない不思議な雰囲 気を醸しだしている。確かに、生と死ははっきり分かれて いるのでなく、連続したものに違いない。 場面や風景の移り変わりでも、忽然と現れることはなく、 静かにパノラマのようにほとんど連続して流れて行く。 |
安定した執筆ペース | 作家にとって1日平均何枚のペースで書くかは結構重要 なことと言われている。超ベストセラー作家やシリーズ ベストセラー作家などは信じられないペースで執筆するし、 逆に数年に一度出版の作家はゆっくり過ぎる位のペース で書いていく。 執筆時間は午前中からはじめて夕方五時ぐらいまでと 決めているそうで、また、一つの作品を書いている時は それに集中して、他の作品のことは考えないという。 器用な作家でないと自ら語っている。 小川洋子さんは多作作家でもなく、少作作家でもない。 小川洋子作品リストにあるように1989年の初出版 から2008年まで1年で約2作品の出版となっている。文 庫本化を含めればその倍近くになるが。自身の言によ れば、1日平均4~5枚のペースで、休むことなく書き続 けているという。慌てず、騒がず、欲張らず安定したペース の執筆態度が静かで美しく、透明感のある作品が生まれ てくるモトになっていると思われる。 |
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プロフィール
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つぶやき博士
性別:
男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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