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小川洋子さんの新刊本


■ 最果てアーケード    講談社    (2012年6月)
■ みんなの図書室    PHP研究所 (2011年12月)
■ 小川洋子の「言葉の標本」   文芸春秋  (20011年9月)
■ 人質の朗読会    中央公論新社 (2011年2月)
■ 妄想気分    集英社 (2011年1月)
■ 小川洋子対話集 文庫版 幻冬舎(2010年8月)

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著者  : 小川洋子
      
出版社: 新潮社
サイズ  : 文庫本
ページ数  : 184p
発行年  : 2009年
価格     : 380円

   
 【わたしの感想文】

小川作品には珍しいシンプルなタイトル「海」。「海」の他、全部短編で7つの短編が収められています。。小川洋子の短編は長編小説と違って複雑な筋書きや、たまにみられる冗長なところが全くないので、すっきり、抵抗なく楽しめます。

最も小川作品らしいのはやはり「海」。小川作品にはいつもこの世にはありそうもない卓抜なモノ、職業がでてきますが、今回は”鳴麟琴”という楽器です。この楽器は、僕の恋人の弟が発明し、唯一の演奏者がその弟だけという設定なんですが、海の生物だけでできているシロモノです。しかも楽器の演奏は口から息を吹き込むだけで、演奏者がメロディを奏でるのでなく、主役はあくまで風、それも海からの風なのです。
この作品では、僕と恋人の関係ではなく、恋人の弟とのつながりが主題と思われます。世の中には「コミュニケーション」という言葉が氾濫していますが、私はこの言葉の中にテクニックとか、表面的なつながりをどうしても感じてしまうのですが、小川作品では「つながり」という言葉がぴったりします。饒舌でもなく、テクニックもない、静かで、冷静で、奥深いところでのつながりを感じることができます。

わかりやすくて、心温まる作品は「ひよこトラック」です。
中年で、家族もいない独り者のホテルのドアマンと、下宿先の言葉を失った六歳の女の子の交流を描いた作品です。
ここでも、コミュニケーションなどの言葉とは全く無縁の不器用な二人のつながりが、何気ない出来事や仕草を通して、実に美しく描かれています。
最後の結末は珍しくハッピーエンドとなっており、読んでいて、すがすがしい気持ちとなりました。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る“鳴鱗琴”について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る「ひよこトラック」、思い出に題名をつけるという老人と観光ガイドの少年の話「ガイド」など、静謐で妖しくちょっと奇妙な七編。「今は失われてしまった何か」をずっと見続ける小川洋子の真髄。著者インタビューを併録。 




【目次】(「BOOK」データベースより)


 海/風薫るウィーンの旅六日間/バタフライ和文タイプ事務所/銀色のかぎ針/缶入りドロップ/ひよこトラック/ガイド 
 

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   凍りついた香り

著者       : 小川洋子
出版社    : 幻冬舎 
サイズ     : 文庫
ページ数  : 318p
発行年    : 2001年
価格        :600円
   
      
   
   
   
   
 

わたしの感想文】

主人公(と言ってもいつものように名前がついていない)
が自殺で亡くした恋人弘之、彼の死の直前に「記憶の泉」というオリジナル香水を調香するに至った恋人の過去を知りたいと、恋人の少年時代、実家、かつてのガールフレンドのことなどが、次第に明らかにされる。かといって謎解き小説ではなく、淡々と透明感あふれるタッチで物語は静かに進んでいく。

恋人弘之は実は数学の天才少年として数々のコンテストで優勝していて、コンテストの模様が実に細かく描かれ、主人公の知らないエピソードが彼の調香師へ至る神秘性を醸し出している。

もう一つ、小川洋子独特の現在と過去、場面の移動、記憶と現実が渾然一体となって、その境目を区別できないくらいするりと行ったり来たりする。読者にとっては良くも悪くもこれは小川作品である。

ところで、「香水の匂い」というものをどう表現して良いものか、男性ばかりか、女性でさえ難しいのではないでしょうか?「金木犀のような臭い」など・・・・・・・・・。
この小説では、「この世の中には40万種類の匂いがあるんだから、調香師は、形のない香りにイメージと言葉を与えて、記憶の引き出しに順序よくしまって、必要な時、必要な引き出しを開けるのです。」と言っています。恋人弘之は記憶とこの引き出し分類能力に卓越した能力を持っていたことが明かされます。小説のタイトル「凍りついた香り」は暗示的であり、神秘に満ちている。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

今でも彼の指先が、耳の後ろの小さな窪みに触れた瞬間を覚えている。まずいつもの手つきでびんの蓋を開けた。それから一滴の香水で人差し指を濡らし、もう片方の手で髪をかき上げ、私の身体で一番温かい場所に触れた―。孔雀の羽根、記憶の泉、調香師、数学の問題…いくつかのキーワードから死者をたずねる謎解きが始まる。

 

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  貴婦人Aの蘇生

著者: 小川洋子
出版社: 朝日新聞出版 
サイズ: 文庫
ページ数: 243p
発行年: 2005年
価格: 525円
わたしの感想文】

義理の伯母にあたる「ユーリー」という名のロシア生まれの貴婦人が物語の主人公である。このユーリー伯母さんは不思議な人で、ロシア最後の皇帝ニコライ2世の4女アナスタシアではないかと思った剥製マニアがTV出演とかいろいろと演出を企てるが、ユーリー伯母さんが亡くなったので、結局謎のままとなってしまう。

アナスタシアとはロシア語で「蘇生」という意味らしく、これが本のタイトルと結びついている。ユーリー伯母さんの趣味は刺繍で、暇さえあればいつも刺繍をやっていて、あちこちにイニシアル「A]と刺繍している。ユーリー伯母さんのご主人の道楽であった貴重な動物の剥製にも「A」の刺繍を施す始末。

このユーリー伯母さんと同居することとなった大学生の私が不思議な家(館と言うべきか?)を舞台にした物語が進んでいく。この小川作品でも現実と幻想が行ったり来たりしている。例えば、貴婦人、動物の剥製もう、この世にいないのに、現実の伯母さん、まるで生きているかのような剥製の描写が重なってくる。

小川作品の中では、この作品は個人的にはあまり、好きではない。読み終えるのに苦労したのを記憶している。それは登場人物も場面描写も複雑すぎて、やや技巧に走り過ぎているような印象を持ったもので、小川流の淡々とした流れに乗っていけなかったためです。
しかし、小川洋子さんはこの作品でも決して読者に媚を売っていないところはその志、良しとしましょう。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

北極グマの剥製に顔をつっこんで絶命した伯父。死んだ動物たちに刺繍をほどこす伯母。この謎の貴婦人はロマノフ王朝の最後の生き残りなのか?『博士の愛した数式』で新たな境地に到達した芥川賞作家が、失われた世界を硬質な文体で描く、とびきりクールな傑作長編小説。

 

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    偶然の祝福

著者: 小川洋子
出版社: 角川書店 
サイズ: 文庫
ページ数: 201p
発行年: 2004年
価格: 500円
わたしの感想文】

7つの小編が収められた短編集。
「失踪者たちの王国」「盗作」「キリコさんの失敗」
「エーデルワイス」「涙腺水晶結石症」「時計工場」「蘇生」の七編である。
短編だけあって、小川洋子さんの小説にしては、非常に読みやすく、そしてわかりやすい。現実と幻想が渾然とする小川作品の中にあっては、どちらかと言えば、現実世界に近いので、小川洋子嫌いの人でもそんなに抵抗感を感じないでしょう。

この短編集の中で、「キリコさんの失敗」が私のお気に入りの作品です。素直に心地よい読後感を持つ作品です。やや「博士の愛した数式」に似た心地よさで、いつも背後にある不気味さはでてきません。

キリコさんというお手伝いさんを語った短編で,お得意は無くしたものを取り戻してくれる達人。リコーダー、万年筆をなくした時も、魔法のように無くし物を取り戻してくれる。恩着せがましくもなく、何気なく幸福を運んでくれる素敵なお手伝いさんが微笑ましい。最後に「服部さん」違いの人に大事な壷を間違えて渡してしまい、責任を感じてか静かに「さようなら」とだけ言って静かに去って行く。

ところで、本のタイトル「偶然の祝福」、これが暗示的である。「キリコさんの失敗」の短編でも、服部さん違いが全くの偶然の出来事。「盗作」の短編でもほとんど同じ題材、物語の小説に偶然遭遇する。
世の中に偶然はなく必ず必然性があるという人もいますが、そんなに単純な世界は面白くない。世の中、人の人生には実は秘められた偶然に満ち溢れているのではないかと思う。この偶然が不幸を招こうと、幸せをもたらそうと、偶然こそが人生の本質、そういう意味では「祝福」されるモノに違いない。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

お手伝いのキリコさんは私のなくしものを取り戻す名人だった。それも息を荒らげず、恩着せがましくもなくすっと―。伯母は、実に従順で正統的な失踪者になった。前ぶれもなく理由もなくきっぱりと―。リコーダー、万年筆、弟、伯母、そして恋人―失ったものへの愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。息子と犬のアポロと暮らす私の孤独な日々に。美しく、切なく運命のからくりが響き合う傑作連作小説。


 

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 物語の役割

著者       : 小川洋子
出版社    : 筑摩書房 
サイズ     : 新書
ページ数  : 126p
発行年    : 2007年
価格        : 714円

 
わたしの感想文】

この「物語の役割」は、三鷹芸術文化センター、京都
造形芸術大学、芦屋市ルナ・ホールで講演した内容
をまとめたものです。
このような作家の考え方、小説作法を直接読んで知る
というのは、良いのか悪いのか賛否両論があると思い
ますが、私の場合、作者の背景を知るのも悪くないと
思っていますので、この類の本をついつい読んでしまい
ます。

小川洋子作品を読んでいて、最近の小説は初期の作品
から、少しずつ変わってきているのでは?(進化?)と
感じていました。
いつか、「なぜ小説家をかくのですか?」の不躾な誰かの
質問に「とにかく書きたいのです」答えていらっしゃるの
覚えています。
ここでは、露骨ではないが、自我と目には見えない自我
に向き合っていたと感じることがありました。例えば「
娠カレンダー
」、心の奥底に潜む微妙な悪意とかを感じま
す。しかし、「博士の愛した数式」あたりから、その自我が
すっかり消え、何か宇宙的な神秘の匂いがします。

物語は作家が創作するものではない。「誰でも日常の中に
物語はすでに現実の中に隠れている。作家は言葉に
されないために気づかれないでいる物語を見つけ出し、
鉱石を掘り起こすようにスコップで一生懸命掘り出して、
それに言葉を与えるのです。自分が考えついたのではな
く、実はそこにあったのだ、というような謙虚な気持ちに
なったとき、本物の小説が書けるのではないかという気が
しています。」とこの本で語っています。
これは、数学者が、数式や定理は人間が作り出したり、
発明するのではなく、発見と言っているのと同じです。

著者小川洋子愛読書の一つレイモンド・カーヴァーの
エッセイ「書くことについて」から、次の文章を引用してい
ます。小川洋子さんの最近の作家スタイルを端的に表して
いると思います。
『作家にはトリックも仕掛けも必要ではない。それどころか、
作家になるには、とびっきり頭の切れる人間である必要も
ないのだ。たとえそれが阿呆のように見えるとしても、作家
というものはときにぼうっと立ちすくんで何かにーそれは
夕日かもしれないし、あるいは古靴かもしれないー見とれ
ることができるようでなくてはならないのだ。頭を空っぽに
して、純粋な驚きに打たれて』 
作家と普通人との違いは、日常の些細な出来事や風景
の中に隠されている何かに気づくかどうか、そしてそれを
言葉にできるかどうかなのであろう。
 内容情報】(「BOOK」データベースより)

私たちは日々受け入れられない現実を、自分の心の形に
合うように転換している。誰もが作り出し、必要としている
物語を、言葉で表現していくことの喜びを伝える。

【目次】(「BOOK」データベースより)

第1部 物語の役割(藤原正彦先生との出会い/『博士の
愛した数式』が生まれるまで/誰もが物語を作り出してい
る ほか)/第2部 物語が生まれる現場(私が学生だった
ころ/言葉は常に遅れてやってくる/テーマは最初から
存在していない ほか)/第3部 物語と私(最初の読書
の感触/物語が自分を救ってくれた/『ファーブル昆虫記』
―世界を形作る大きな流れを知る ほか)

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つぶやき博士
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男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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