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小川洋子さんの新刊本


■ 最果てアーケード    講談社    (2012年6月)
■ みんなの図書室    PHP研究所 (2011年12月)
■ 小川洋子の「言葉の標本」   文芸春秋  (20011年9月)
■ 人質の朗読会    中央公論新社 (2011年2月)
■ 妄想気分    集英社 (2011年1月)
■ 小川洋子対話集 文庫版 幻冬舎(2010年8月)

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著者  : 小川洋子
出版社  : 講談社 
サイズ  : 単行本
ページ数  : 146p
発行年  : 2004年
価格     : 1365円

   
 【わたしの感想文】

 ブラフマンという小さな不思議な動物との出会いから、交通事故で亡くなり、埋葬するまでの物語。
例によって、タイトルのブラフマンのことですが、元々は
ブラーマンともよばれ、宇宙の根本原理で万物が之によって創造された考えられています。仏教では「梵天」と言われるようになったそうです。

小さな動物が犬なのか、猫なのか、狐なのか読者はまず色々勘ぐるわけですが、結局、分からずじまいで、ブラフマンのタイトルが示すように、神秘的な動物、架空の動物ということになってしまいます。
このように、架空の動物があたかも現実にいる動物と錯覚してしまうような描写が実に小川作品の特徴のように思われます。

ある日、傷ついた可愛い、小さな動物が僕の前に現れる。
この小動物と「僕」は、様々な創作活動をする人々(芸術家?)が出入りする家の管理人を勤めている。ここでは、森に囲まれた静かな環境の家で、掃除・選択、送迎、などの日々の雑務を忙しく、しかし、淡々とこなしていく。

また、僕は村の雑貨屋の若い娘と知り合いになる。特別な恋愛感情はないが、ひょんなことから、この娘に運転の仕方を教える。これが皮肉にも若い娘が運転する車にブラフマンが轢かれて死んでしまう。小川作品にしてはやや、びっくりするような幕切れである。

ブラフマンの死が荘厳な埋葬という儀式でなぜか昇華されます。
ここでも生と死ははっきり分かれているのではなく、つながっている印象を受けます。最後の場面、いつもと違うので、何だろうといろいろと深読みしたくなるのでしょうが、ここは、美しく、素直な、静寂な世界をじっくり楽しんで読むのが良いと思います。どっちにしても楽しく読める作品です。
 
『博士の愛した数式』に続く小川洋子最新作。夏の初めのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた。それは傷だらけの小さな生き物だった。思い出せば今でも温かな気持ちになれる、奇跡のような楽しい毎日。

【内容情報】(「BOOK」データベースより)

夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた。あたたかくて、せつなくて、いとおしい。こころの奥に届く忘れられない物語。


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    沈黙博物館

  
 
著者  : 小川洋子
出版社  : 筑摩書房 
サイズ  : 文庫
ページ数  : 376p
発行年  : 2004年
価格     : 714円

   
 【わたしの感想文】

博物館を設計、建設する技師である「僕」が主人公。オーナーである口の悪い老婆、懸命に尽くす養女である少女、腕の良い庭師を中心に、普通の読者にとっては、不気味な博物館を作る物語である。
はっきり言って、小川洋子ファンでなければ読まない小説と思う。一気に読む小説ではないし、少しずつ読まないと疲れてしまう長編小説である。小説のスタイルと展開は「貴婦人の蘇生」と似通ったところがあって、懲りに凝ったこだわりのモノがふんだんにでてくる。
博物館と言えば、常識的にはその展示物を観、その美しさ、凄さを愉しみ、精々そのいわれとかを知りたいと思う位である。しかし、小川洋子の視点は博物館という見える世界から逸脱して、博物館の別の見えない世界を描こうとしていると思えます。

博物館では、普通、展示に一番力をいれるが、この博物館では展示に至る「収集」をポイントとしている。
その収集に当たっては、死者の遺品収集に異常なまでのこだわりがあり、泥棒まがいのやり方も辞さない。
この異常さ、不気味さを描くのが小川洋子さんの別の
側面であるが、これを好んで読みたいという読者に
とっては小川作品の中でも最高作品となっている
かも知れない。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)

  耳縮小手術専用メス、シロイワバイソンの毛皮、切り取られた乳首……「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ」――老婆に雇われ村を訪れた若い博物館技師が死者たちの形見を盗み集める。形見たちが語る物語とは? 村で頻発する殺人事件の犯人は? 記憶の奥深くに語りかける忘れられない物語。

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著者       : 小川洋子
出版社    : 文芸春秋社 
サイズ     : 文庫
ページ数  : 202p
発行年    : 1994年
価格        : 440円
 【わたしの感想文】

ぎょっとする小説である。男である私には想像できない世界。この小説に出てくる妊娠した姉の夫、ただただ、おろおろするばかりで、
何も役に立たず、無頓着で世俗的なことしかやらないし、想像力はゼロ。私と非常に似ている。
一方、妊娠した姉の妹(主人公)の心の奥と見えない世界。この対比が鮮やかに描き出されている。

妊娠というオメデタ、つわりに絶えながら、徐々に母性に目覚める成長を遂げ、輝かしい生命の誕生を迎えるという単純な常識をひっくり返す。しかしこの主人公は、日常のこまごまとしたことを淡々とこなす。姉のわがままな言動や、好き勝手な料理の要求に対して、反抗することなく、従順に、丁寧にこなす。そのような普通に見える彼女だからこそ、目には見えない、想像力が働くのかも知れない。
 
この小説で焦点となっているのが、「農薬入りのアメリカ産グレープフルーツ」と「破壊される染色体」であろう。つわりが終わると突如、食欲を増した姉に対して、農薬が入っていると知りながら、このグレープフルーツのジャムを毎日のように食べさせる。姉と生まれてくるであろう赤ん坊に殺意があるわけではない分、余計に不気味さを感じさせてしまう。この農薬が胎児の染色体を破壊するかも知れないとは主人公は知識として知っている。

もちろん、この農薬が致命的な影響があるとは、常識的にはありえないでしょうが、主人公のこの行いは読者には衝撃的である。
小川作品の中では、一番不気味さを感じるが、見えない世界を描く小川作品としてみれば、全く普通人である主人公を通して、目には見えない時代の流れを静かに感じとっているのかも知れない。毒や悪がないと小説ではないと言う評論家がいますが、毒や悪を正面から描くのでなく、それとは分からないように、静かに語っている。この「妊娠カレンダー」は恐らく、賛否両論を巻き起こす珍しく挑戦的な作品と思いました。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)


 出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹…。妊娠をきっかけとした心理と生理のゆらぎを描く芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」。謎に包まれた寂しい学生寮の物語「ジミトリイ」、小学校の給食室に魅せられた男の告白「夕暮れの給食室と雨のプール」。透きとおった悪夢のようにあざやかな三篇の小説。

【目次】(「BOOK」データベースより)

妊娠カレンダー/ドミトリィ/夕暮れの給食室と雨のプール

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    生きるとは自分の
物語をつくること


著者: 小川洋子
河合隼雄
出版社: 新潮社
サイズ: 単行本
ページ数: 156p
発行年: 2008年
価格: 1365円
わたしの感想文】

小川洋子作品では珍しい対談集。お相手は臨床心理学者の河合隼雄博士。河合隼雄博士はその商売柄、対談の名手として良く知られています。多くの河合隼雄対談集がありますが、作家では村上春樹、吉本ばななとの対談集を私は読んだことがあります。

この対談集の編集過程で河合先生が突然倒られ、2007年7月19日逝去されました。このため、「二人のルートー少し長すぎるあとがき」として、追悼を兼ねた河合先生への尊敬あふれる小川洋子さんのあとがきが付いています。その意味では河合先生最後の貴重な対談集となっています。

河合先生は対談の名手と同時に、ダジャレの名手でもありますので、聞き上手で冗談を飛ばしながら、肝心な点の質問がぽんぽん出てきて、楽しく読むことができます。
対談の主題は「物語」。これが生きることと密接につながっているということですが、最初は何のことかとわかりませんでした。物語のエピソードとして出てくるのが、あの「博士の愛した数式」に登場する家政婦さんの息子”ルート”です。ルートという名前は小川さんは数学記号の√(ルート)から命名したわけです。ところが、河合先生は「博士の愛した数式」の映画を見た時、ダジャレではありますが、息子のルート君を見て「ルーツ」、すなわち、道を開く、ルーツ(根源)と感じたそうです。博士と息子は、自然な形結びついていると絶賛していました。これには後日談があって、小川さんが「アンネの日記」の件でオランダ訪問した際、アンネ関係者の中に「ルート」さんという方に会ったことを突然思い出したそうです。「ルート」さんは決してでしゃばらず、周囲の人たちに気を配る紳士で、ルート君は偶然同じ名前だったわけですが、なぜか二人は無関係ではないのではないかと語っています。私はこれが物語の象徴ではないかと勝手に考えました。

小川洋子作品で、不思議な小動物が登場する「ブラフマンの埋葬」のタイトル”ブラフマン”について河合先生は「ブラフマンというのはユングが大好きな言葉ですよ」といっていました。ブラフマンという名前も辞書で何気なく付けた名前だそうですが、この続きをする約束が叶わずに終わってしまいましたが、何か縁を感じます。 あとがきの中で小川洋子は「人生は物語だなあ、とふと思う。その瞬間、私は現実の本質に最も接近している実感を持ちます。現実と物語が反発するのでなく、境界線をなくして一つに溶け合った時こそ、大事な真実がよく見えてくるのです。」 また、「世界中にあふれている物語を書き写すのが自分の役割とすれば、私はもうちっぽけな自分に怯える必要はないのです。物語は既にそこにあるのですから。このように先生との出会いは大きな転機となりました。小説を書く作業が困難に満ちているのは変わりませんが、根本的な部分で「自分」の比重が軽くなり、かえって自由な視野を得たようなきがします。・・・・・・・・私は先生によって書き手として自分の位置を発見できたのです。」
  内容情報】(「BOOK」データベースより)

物語は心の薬―人生の危機に当たっても、生き延びる方法を、切実な体験を語りつつ伝える。河合隼雄氏が倒れられる直前に奇跡のように実現した、貴重な最後の対話。

【目次】(「BOOK」データベースより)

1 魂のあるところ(友情が生まれるとき/数字にみちびかれて/永遠につながる時間/子供の力/ホラ話の効能)/2 生きるとは、自分の物語をつくること(自分の物語の発見/「偶然」に気づくこと/黙っていられるかどうか/箱庭を作る/原罪と物語の誕生/多神教の日本に生まれた『源氏物語』/「死」への思い、「個」への執着/「原罪」と「原悲」/西欧一神教の人生観/厳密さと曖昧さの共存/忘れていたことが出て来る/傍にいること)

 

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  完璧な病室

著者       : 小川洋子
出版社    : 中央公論社 
サイズ     : 文庫
ページ数  : 244p
発行年    : 2004年
価格        : 620円

 
わたしの感想文】

小川洋子デビュー作「揚羽蝶が壊れる時」と第2作目の「完璧な病室」が収められています。

揚羽蝶が壊れる時』
まず最初に感じたことは、小川流の抑制の効いた、静謐な文体でなく、頭に浮かんだイメージがそのまま言葉となって、ほとばしっている印象を受けました。ですので、文章は分かりにくく、はっきり言って、私は文章についていけなくなる位でした。

痴呆症(今では認知症と呼ぶようになりましたが)の祖母さえを施設に預けた主人公が、実際にやってしまった現実とは別に後悔の気持ちが複雑に飛び交う心の動きが語られています。この物語では「正常と異常」が主題のように感じました。認知症で、異常な行動やしぐさの祖母に対して、心の奥底では自分が思っている正常と異常の区別が曖昧になっていることを感じる。
普通の人は無意識に正常と異常をはっきり区別しているが、小川作品ではその境界を行ったり来たりしている。このスタイルは後の作品「妊娠カレンダー」をはじめずーっと引き継がれている。読むのに疲れる作品ではありますが、まあ、小川ファン以外は読まない作品かも知れません。

完璧な病室』
このような繊細な小説は女性にしか書けないと思いました。文章も前作「揚羽蝶が壊れる時」のように饒舌過ぎず、抑制の効いた読みやすい文章となっています。
主人公の若い主婦、弟、弟の主治医S、夫の4人が登場しますが、主人公と弟、主人公とその夫、主人公と主治医の3つの関わりが非常に対比的で面白く感じました。

弟との関係では、余命13ヶ月と宣告された弟に、静寂で完璧な環境の病室を舞台に、兄弟関係を超えたつながりが描かれています。例えば、「祈るように、何度も何度も髪を撫でた。完璧な土曜日だった。わたしたちは生活の汚れから遠く隔離されていて、誰にも邪魔されず二人きりで、とても愛し合っていて、そしてわたしの掌は快感にあふれていた。」とあります。

弟の主治医Sの関係では、日頃は決して口に出すことはない、とてつもない言葉「先生、わたしを、抱いてくれませんか」と発して行動に移します。しかし、その言動は官能的ではあるが、どこか冷めていて、冷静なのです。

夫との関係は、普通の夫婦と同じように、生活のドロドロ感や平凡な、常識的な会話など、全く日常生活そのものが描かれています。

結局、女性が誰でもが持っていると思われる日常感と非日常感を3つの典型的な対比を通して、鮮やかに示されていて、女性特有の繊細で美しい心の奥底を垣間見るこtができたように思いました。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

弟はいつでも、この完璧な土曜日の記憶の中にいる―病に冒された弟と姉との時間を描く表題作、海燕新人文学賞受賞作「揚羽蝶が壊れる時」に、第二作品集「冷めない紅茶」を加えた四短篇。透きとおるほどに繊細な最初期の秀作。

【目次】(「BOOK」データベースより)

完璧な病室/揚羽蝶が壊れる時/冷めない紅茶/ダイヴィング・プール

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プロフィール
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つぶやき博士
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男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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