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小川洋子さんの新刊本


■ 最果てアーケード    講談社    (2012年6月)
■ みんなの図書室    PHP研究所 (2011年12月)
■ 小川洋子の「言葉の標本」   文芸春秋  (20011年9月)
■ 人質の朗読会    中央公論新社 (2011年2月)
■ 妄想気分    集英社 (2011年1月)
■ 小川洋子対話集 文庫版 幻冬舎(2010年8月)

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  科学の扉をノックする


著者: 小川洋子
出版社: 集英社
サイズ: 単行本
ページ数: 209p
発行年: 2008年
価格: 1,470円
わたしの感想文】
博士の愛した数式」で、数学に魅せられた著者小川洋子さんは「世にも美しい数学入門」、「博士がくれた贈り物」を著わしました。文学とは無縁と思われた数学の美しさを世に伝えたわけですが、彼女の好奇心は数学から科学へと広がってしまい、この作品が生まれたようです。
静謐で美しい小説を目指していると思われる小川さんにとって、科学は美しいし、自然界に隠されている神秘さに畏敬の念を持っているので、ある意味では納得の著作と言えるかも知れません。

ただ、小説好きの小川ファンにとっては違和感を持つ人も多いと思います。こんなエッセイを書くんだったら、早くちゃんと小説を書いて下さいよという声が聞こえそうです。私はこういうことにも興味があるので、読んでしまいましたが、ぞっこんの小川中毒者か、または多少理工系の頭がある人しか読まないでしょう。

第1章~第7章まで、7つの自然科学分野の専門家の取材をもとに書き下ろされています。登場する科学者は、彗星科学、鉱物科学、生命科学、天文学、放射光、粘菌、遺体科学、スポーツトレーニング科学の専門家である。それぞれに面白さがあるのですが、いかにも小川好みの偏見と独断で選んだのが「遺体科学」の国立博物館遠藤秀紀先生と「トレーニング科学」で、阪神ファンの小川さんが選んだ阪神タイガース続木敏之トレーナーコーチでの二つである。

この遺体科学の章は気が小さい人や、生物の解剖などが怖いと思った人、不気味ものが嫌いな人は読まないで下さい。世の中には、何かを無尽蔵にに集める人間、集めないではいられないコレクター人間がいますが、このような収集癖のある人を題材とした小川作品がいくつかあります。例えば、「薬指の標本」、「沈黙博物館」。小川さんが
はこのへんへの興味は尽きないようで、取材した遠藤秀紀先生の次の言葉がやはり強く印象に残りました。”遺体にひそむ謎を追い、遺体を人類の知のために保存する「遺体科学」。”私たちの仕事は、動物の遺体を無制限・無目的に収集することです。”
無目的というのが何とも気高く、その志や良しと言いたくなりました。

阪神タイガースの続木トレーニングコーチを選んだのは、まあ、阪神ファンの小川さんのご愛嬌というべきものでしょう。昔当たり前だった”ウサギ跳び”トレーニングがいまやダメなトレーニングとなったように、スポーツ医学の進歩は著しい。プロ野球の選手でも30~35才を過ぎたらそろ引退だった時代から、今の阪神 金本知憲選手、下柳剛選手のように40才になっても第一線で活躍している選手が多くいるのはこの科学的トレーニングによる進歩と言えるかも知れません。しかし、小川さんの視点はどんなにスポーツ医学が進歩しても、肉体といえども人間がコンロールするものだから、精神的・感覚的な面に見え隠れする人間臭さに感じる力を大切にしたいということかもしれん。
 
小川洋子が研究者と研究室の取材を通して書き下ろす、科学入門エッセイ。

兵庫県三日月町にある、世界最高性能の放射光を利用することができる大型の実験施設・SPring-8や解剖学教室など、聞いたことはあっても実感が湧かない科学研究の「場」を訪ねる。國松元警察庁長官狙撃事件で極微量の証拠を分析するのに役立ったので一躍有名になったSPring-8だが、そんな微細な分析になぜ大掛かりな施設が必要なのか。人体を腑分けする解剖学教室とはどのようなところか。その他6章。知れば知るほど科学はファンタジーです、という著者。科学に関して初心者である著者がその面白さを知るためにファンタジー世界への扉を開ける一冊。
 
 

【目次】(「BOOK」データベースより)

1章 渡部潤一と国立天文台にて―宇宙を知ることは自分を知ること/2章 堀秀道と鉱物科学研究所にて―鉱物は大地の芸術家/3章 村上和雄と山の上のホテルにて―命の源“サムシング・グレート”/4章 古宮聰とスプリングエイトにて―微小な世界を映し出す巨大な目/5章 竹内郁夫と竹内邸にて―人間味あふれる愛すべき生物、粘菌/6章 遠藤秀紀と国立科学博物館分館にて―平等に生命をいとおしむ学問“遺体科学”/7章 続木敏之と甲子園球場にて―肉体と感覚、この矛盾に挑む

 

 
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 寡黙な死骸 みだらな弔い

著者       : 小川洋子
出版社    : 中央公論新社 
サイズ     : 文庫
ページ数  : 241p
発行年    : 2003年
価格        : 680円

 
わたしの感想文】

11の独立した短編集ですが、よく読んでみると、一つの
短編が次の短編に何らかのつながりがある連作集とな
っています。たとえば、第1作で、息子を亡くした女の
主人公が訪れる洋菓子店の店員が第2作の「果汁」の
主人公となっています。この連作の手法は確かに読んで
いて、”あれ!”と思い、次の短編ではどうなるのか?と
期待を持たせてくれます。その意味では、小川作品には
珍しい凝った演出が読み取れます。

さて、短編の内容ですが、一言で言えば、小川作品の
中では最も不気味な、そしてグロテスクな「ホラー小説」
または「怪奇小説」です。小川作品には「沈黙博物館
をはじめ、生と死を扱った小説がいくつかありますが、
この作品ではすべて「死と弔い」が出てきます。どれも、
不思議な、そして不気味な話です。この感じは小川作品
の一側面でもあります。連作になっている怪奇小説なの
で、結構、スリルがあって、ついつい読んでしまいます。
また、現実には絶対ありえないこと、例えば「心臓の仮
縫い」の短編では肉体の外に飛び出した心臓を鞄の中
に入れるための鞄作りを依頼された鞄職人などあっと
驚く、不気味な話が結構出てきます。

モノあるいは身体のパーツ、例えば、指、髪などに異常
な執着を示す描写は小川作品の一つの特徴ですが、
これは常識的には「異常」、「猟奇的」世界に入る。しかし
、この異常さの描写がなぜか、情緒的でなく、冷めた
観察者のような目で語られるのが独特といえるでしょう。

「死」と「弔い」のことですが、その独特な世界が描かれ
ます。例えば、息子の誕生日に食べるはずだった苺の
ショートケーキ。息子の死という精神または抽象の世界
→非常に微細なところま描写されたショートケーキに姿を
変え→そのショートケーキが腐敗して飛散し、なくなって
しまう。→ 消失した後、また、別のモノに記憶される。

このパターンは他の章でも見られるもので、死の
形が別の具体的モノに置き換えられる。一番愛着、執着
した人,モノが、ある日、突然、死あるいは消失を迎える。
しかし、消失した後も別の形で記憶に残される。第1章の
「洋菓子屋の午後」では、息子が亡くなって相当経った後、
再度訪れたケーキ屋さんで、息子の死とは無関係の事情
で泣きながら電話している少女の姿となって反映される。

 内容情報】(「BOOK」データベースより)

息子を亡くした女が洋菓子屋を訪れ、鞄職人は心臓を採寸する。内科医の白衣から秘密がこぼれ落ち、拷問博物館でベンガル虎が息絶える―時計塔のある街にちりばめられた、密やかで残酷な弔いの儀式。清冽な迷宮を紡ぎ出す、連作短篇集。

【目次】(「BOOK」データベースより)

洋菓子屋の午後/果汁/老婆J/眠りの精/白衣/心臓の仮縫い/拷問博物館へようこそ/ギブスを売る人/ベンガル虎の臨終/トマトと満月/毒草



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 やさしい訴え
 

著者: 小川洋子
出版社: 文芸春秋社 
サイズ: 文庫
ページ数: 285p
発行年: 2004年
価格: 550円
わたしの感想文】
気高く、美しい雰囲気を醸しだす長編で、タイトルの”やさしい訴え”はチェンバロで聞く曲の題名です。
東北の、美しい林の中に囲まれた村を舞台にした、3人の物語。小川作品には珍しい固有名詞がついた登場人物は、主人公の”瑠璃子”、チェンバロ作りの”新田”さん、そしてその女弟子”薫”さん、新田さんをめぐる、いわば、三角関係がせつなく、美しく描かれている。「博士の愛した数式」、「薬指の標本」は映画化されましたが、この作品も映画化されたら、美しい映像になるなあ!とふと思ってしまいました。

主人公の瑠璃子は文字装飾のカリグラフィーという珍しい仕事をしている。眼科医の夫とうまくいかず、結局は離婚すことになるが、夫から逃れるように林の中の別荘に身を隠す。その村で、チェンバロ作りの新田さんと弟子の薫さんに出会う。新田さんはピアノ弾きの優れた才能を持ちながら、人前では弾けない致命的なトラウマのため、ピアノを断念し、こだわりのチェンバロ創作を行っている。薫さんは過去に悲惨な死を遂げた恋人の傷を背負っている若い女弟子です。

3人をめぐる関係は、美しい林、湖、樹木、鳥の鳴き声、愛犬などを背景して、美しく、静かに、愛おしく、展開する。瑠璃子が、夫とは全く違うタイプの新田さんに寄せる愛は狂おしく、強烈であるが、抑制の効いた描写は、やはり小川作品ならではという気がします。この種の三角関係の恋愛物語は昔からヤマほどあり、起伏激しい感情表現や性愛描写を読ませるようになっていますが、この作品は不倫オンパレードのストーリーなのに、小川流になると、何故か、いやらしくなく、官能的ではあるが、詩情的となってしまいます。

新田さんと薫さんとの愛情関係に、主人公の瑠璃子が割り込んで、本心は奪いたいという、いわばエゴの愛の描写が濃密に描かれる。瑠璃子は女弟子、薫さんとも親しいのだが、内心では、嫉妬が渦巻いており、新田さんへの愛との間で苦悩する。新田さんと薫さんの愛の関係は、故意的に淡々としか語られておらず、本当のところは分からないようになっているのが憎らしい演出です。

最後は新田さんとの別れとなります。新田さんが作ったチェンバロに”Y.NITTA”のカリグラフィーを刻むことで、薫さんへの復讐を果たしたことにもなるのですが、主人公瑠璃子は自分自身の物語の中に、鮮明な記憶として残したかったのだろうと勝手に解釈してしまいました。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

夫から逃れ、山あいの別荘に隠れ住む「わたし」が出会った二人。チェンバロ作りの男とその女弟子。深い森に『やさしい訴え』のひそやかな音色が流れる。挫折したピアニスト、酷いかたちで恋人を奪われた女、不実な夫に苦しむ人妻、三者の不思議な関係が織りなす、かぎりなくやさしく、ときに残酷な愛の物語。 


 

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 まぶた 
 

著者: 小川洋子
出版社: 新潮社 
サイズ: 文庫本
ページ数: 221p
発行年: 2004年
価格: 420円
わたしの感想文】
8編からなる短編集です。
小川作品を読んでいくと、現実にはありそうもないことが描かれていて、この短編集でもいくつか出てきます。しかし、現実にはありそうもない話は常識的には、不気味な、怖い、時には残酷な印象を残しますが、私は何故か「夢を見た」時のことを思い出します。「夢の世界」では、とんでもない、思いもしなかったことや、全く理不尽な夢をみることがよくあります。そこには、わたし達が現実の場面では、意識していない、しかも説明もできない無意識の世界が横たわっていることを気ずかせてくれます。小川作品では、現実と非現実の両方を境目なく往来している感覚におそわれます。印象に残ったものは次の3編でした。

「まぶた」では、15歳の少女である主人公が、正体不明の怪しげな中年男Nと恋をして島にある彼の家で密会する。この中年男Nが詐欺師まがいの実に不思議な人物で、おもわず、笑ってしまいます。2人の様子をじっと見守るハムスターは病気でまぶたを切り取ってしまっていて、まぶたがない。小川作品によく出てくる身体への一部への異常なこだわり、今回はまぶたなのです。

「バックストローク」、この短編の異常な内容に、不気味さと悲しみ、切なさがひしひしと伝わってきます。オリンピック強化選手に選ばれる程の水泳の才能を持った弟。弟に全力で尽くす母親。静かに見守る私。母親が自分の家の庭にプールを作った後に事件が起こる。左腕が耳に沿って伸ばした格好で、左腕が上がったまま動かなくなり、水泳はおろか、家族も崩壊に向かっていく。まさしく、夢に出てくる世界である。崩壊、死と引き換えに弟と私のささやかな生がさりげなく描かれいます。

「リンデンバウム通りの双子」、私がこの短編集の中で一番好きになった短編でした。自分の小説を丁寧に翻訳してくれていたハインツというドイツ人。住所だけをたよりにハインツのアパートを訪ねてみると、5階に双子の弟カールとひっそり暮らしていた。二人とも独身で相当老いていて、カールは足が不自由で外出ができない。私にできることは何かないかと思い立ち、カールを背負って外出することとなった。外出先ではこの老双子の思い出が詰まっているカールの店だった花屋、父の元医院などを訪れ、胸いっぱいになって帰宅します。この小さな挿話が、とてもいとおしく、感動的で、物語の愉しみを存分満喫できました。これは名著「博士の愛した数式」より、数年前の作品ですが、同じ流れにあるように思います。小さな挿話から始まる物語が人に与える偉大な力を感じます。
  【内容情報】(「BOOK」データベースより)

15歳のわたしは、高級レストランの裏手で出会った中年男と、不釣合いな逢瀬を重ねている。男の部屋でいつも感じる奇妙な視線の持ち主は?―「まぶた」。母のお気に入りの弟は背泳ぎの強化選手だったが、ある日突然左腕が耳に沿って伸ばした格好で固まってしまった―「バックストローク」など、現実と悪夢の間を揺れ動く不思議なリアリティで、読者の心をつかんで離さない8編を収録。

【目次】(「BOOK」データベースより)

飛行機で眠るのは難しい/中国野菜の育て方/まぶた/お料理教室/匂いの収集/バックストローク/詩人の卵巣/リンデンバウム通りの双子

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 刺繍する少女
 

著者: 小川洋子
出版社: 角川書店 
サイズ: 文庫
ページ数: 229p
発行年: 1999年
価格: 620円
わたしの感想文】
美しく、静謐な世界を描く小川作品。心の奥底に潜む邪気や闇の世界を描く小川作品。両方とも小川作品なのです。この本では両方の世界を描いた10の短編が収められています。
短編を続けて読んでしまったので、中には、印象に残らないもの、もう忘れてしまった短編もいくつかありました。

「刺繍する少女」は美しく、静謐な印象を与える作品に属すると思います。終末期を迎えた母がいるホスピスで、子供の頃に高原で遊んでいた少女に再会する。その少女はいつも刺繍をしていた。
刺繍をしているのですが、小川流独特のの身体の一部、ここでは刺繍する指に強いこだわりが見られます。例えば、
「彼女は僕の膝に布を広げた。二人の指があまりに近づき合っていたので、まるで彼女の手を握っているかのような錯覚が湧き上がってきた。・・・・・・・・・僕は女の子の髪飾りなど見ていなかった。あとわずか斜め横に指を動かしてら、本当に彼女に触れるこ
とができそうだった。でも、ほんのわずかのところで、その華奢な指は僕をすすり抜けてゆくのだ。」  そのこだわりはしかし、なんとも美しく感じます。母が亡くなった後のベッドシーツの刺繍を完成させた後、ひっそりといなくなってしまう少女の結末は秀逸です。

「図鑑」は、奇妙で、奇怪な印象を与える不気味さが持ち味で、、彼に寄せる説明できない不思議な執着と不倫の愛を描いた作品です。下の一文が印象に残りました。
「自分の中にもどこかにも、こんな寄生虫がいるかも知れない、とわたしは想像する。一匹の細い虫が、内臓の中を泳いでいく。そこは、暗闇で、生温かく、消化液のしみ出すくぐもった音だけがしている。あるいは、わたしが寄生虫になって、彼の中をさ迷うのはどうだろうか。入り組んだ内臓を、時間をかけて、隅々まで味わう。疲れたら、鈎形の吸着器を肉の壁に食い込ませ、ゆらゆらと休息する。そこは出口のない世界だ。」
この短編の最後の結末は、あまりにも気持ち悪くなりましたので、ここでは書きません。
 
 
【内容情報】(「BOOK」データベースより)

母がいるホスピスで僕は子供の頃高原で遊んだ少女に再会、彼女は虫を一匹一匹つぶすように刺繍をしていた―。喘息患者の私は第三火曜日に見知らぬ男に抱かれ、発作が起きる―。宿主を見つけたら目玉を捨ててしまう寄生虫のように生きようとする女―。死、狂気、奇異が棲みついた美しくも恐ろしい十の「残酷物語」。

【目次】(「BOOK」データベースより)

刺繍する少女/森の奥で燃えるもの/美少女コンテスト/ケーキのかけら/図鑑/アリア/キリンの解剖/ハウス・クリーニングの世界/トランジット/第三火曜日の発作

 

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プロフィール
HN:
つぶやき博士
性別:
男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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