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小川洋子さんの新刊本


■ 最果てアーケード    講談社    (2012年6月)
■ みんなの図書室    PHP研究所 (2011年12月)
■ 小川洋子の「言葉の標本」   文芸春秋  (20011年9月)
■ 人質の朗読会    中央公論新社 (2011年2月)
■ 妄想気分    集英社 (2011年1月)
■ 小川洋子対話集 文庫版 幻冬舎(2010年8月)

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 シュガータイム


著者: 小川洋子
出版社: 中央公論新社 
サイズ: 文庫
ページ数: 215p
発行年: 1997年
価格: 520円
わたしの感想文】
小川洋子さんの芥川賞受賞後、初めての長編小説。
全体の流れとしては、大学生活を舞台とした小説なので、作者には気に入らないと思いますが、一種の青春小説と言えなくもない。

「シュガータイム」というシャレたタイトルは彼女の大好きなロックシンガー佐野元春の曲の名前から付けられている。19才のとき、プレゼントされた佐野元春「SOMEDAYS」の一番最初に流れる曲が「シュガータイム」で、小川さんはこの曲に衝撃を受けたという。

小川作品によくでてくる食べ物、食事場面、ちょっと変わった弟、恋人、この作品でもリアルに描写されている。
過食症までとはいかないが、異常な食欲で食べずにはいられない主人公の女子大生。
特に食べ物、たとえば、ドーナツ、パウンドケーキ、グリーンアスパラガスの描写は実に細かく、他人には全くまねできない独特の世界をイメージしてくれる。ドーナツについて以下の描写があります。
「ノートの中のドーナツという文字は、鮮やかで生々しく刺激的だった。文字をみていると、表面が油でしっとりと潤んでいる様子、指先についてくる粉砂糖の感触、生地の空気穴の繊細な模様などを、はっきりと思い描くことができた。」

もう一つ、主人公の弟として登場する人物は、いつも不思議な、あるいは病いを持つ人が多いが、ここでは、主人公の弟、航平は背が大きくならない病気を持つている。
極端に背が低い大人なので、当然、世間の好奇の視線を浴びることになる。
しかし、弟と主人公、二人とも、理不尽な世間の無理解に格別絶望することなく、その事実を静かに受け止め淡々と生活している。悪い表現で言えば、諦め、問題にしても仕方がないことをわかりきっているかのように淡々と冷静である。このような冷静、透明な態度は小川作品の特徴でもあり、あえて社会的なメッセージ性を持たせていない。

この本のあとがきに作家小川洋子は次のように語っている。
「わたしがどうしても残したいおきたいと願う何かが読んでくださった方々に少しでも伝わればありがたい。。この小説はもしかしたら、満足に熟さないで落ちてしまった、固すぎる木の実のようなものかもしれない。それでも皮の手触りや小さな丸い形や、青々しい色合いだけでも、味わってもらえたらと思う。」 小説としては世間に受け入れやすい青春小説の風がやや残っていて、まだ、小川洋子の世界にはっきりと腰が据わってないように感じましたが、やはり、小川洋子独特の世界に完全に突入するきっかけのとなった小説と言えそうです。
 
【内容情報】(「BOOK」データベースより)

三週間ほど前から、わたしは奇妙な日記をつけ始めた―。春の訪れとともにはじまり、秋の淡い陽射しのなかで終わった、わたしたちのシュガータイム。青春最後の日々を流れる透明な時間を描く、芥川賞作家の初めての長篇小説。

 

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  アンジェリー
 
(佐野元春と
10の短編)


著者: 小川洋子
出版社: 角川書店 
サイズ: 文庫
ページ数: 234p
発行年: 1997年
価格: 420円
わたしの感想文】
当時、月間カドカワの編集長だった豪腕、見城徹氏(現
幻冬舎社長)が小川洋子さんを強引に説得して生まれた
作品である。
尋常でない才能を見抜いた見城徹氏のさすがの見識で
あった。早稲田大学学生時代から熱烈なファンであった
ロックシンガー佐野元春の曲を題材にして小説を創作
するという今までにない斬新な企画でこの短編集が世に
でることとなった。

この短篇集は小川さんが大ファンである佐野元春の曲
のタイトルから採られた「アンジェリーナ」、「バルセロナ
の夜」、「彼女はデリケート」、「誰かが君のドアを叩いて
いる」、「奇妙な日々」、「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日々
」、「また明日・・・」、「クリスマスタイム・イン・ブルー」、
「ガラスのジェネレーション」、「情けない週末」の10篇が
収められています。10編の原曲のタイトルに、著者小川
洋子が付けた小説としての副題が付けられている。

また、各短編の冒頭には佐野元春原曲の歌詞が添え
らている。佐野元春の歌詞そのものはわたしにとっては、
ほとんど理解できない遠い世界であったが、小説という
物語りになると結構楽しむことができた。

10編の短編の中で、印象深かったのは、やはり「アン
ジェリーナ」でした。副題は「ー君が忘れた靴ー」。
誰かが駅のベンチに置き忘れたダンスシューズ、その
シューズにはアンジェリーナという女性の名前の刺繍が
つけられている。それを拾った僕、持ち主探しの小さな
広告から持ち主の元ダンサーの若い女性と出会う、
取りにきた僕の部屋で、そのシューズを再度、置き忘
れる。もちろんわざとである。二度目の再会でも、結局
僕の部屋にそのシューズがずっと保管されることになる。

ストーリーとしてはある意味では何てことない物語では
あるが、そこに小川洋子独特の核心(境界のない世界
ーここでは足という身体とシューズというモノの境界線が
なくなるー)が見事に刷り込まれている。以下の描写が
あります。
「トウシューズは肌の一部のようにぴったりと足をつつん
でいた。爪先の曲線やリボンの結びめが、彼女を縁取る
輪郭と一続きになっていた。壊れそうなくらい華奢なのに、
毅然としたしなやかさがあった。それは足というより、一つ
の奇跡だった。」
この一説は1年後に出版された小川洋子の代表的名作
薬指の標本」、似た場面の描写があり、この短編が
伏線となっているとわたしは思います。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

駅のベンチで拾ったピンクのトウシューズに恋した僕は、その持主の出現を心待ちにする―「アンジェリーナ」。猫のペーパーウェイトによって導かれたベストセラー小説とは―「バルセロナの夜」。佐野元春の代表曲にのせて、小川洋子が心の震えを奏でて生まれた、美しい10の恋物語。物語を紡ぐ精霊たちの歌声が聞こえてくるような、無垢で哀しく、愛おしい小説集。

【目次】(「BOOK」データベースより)

アンジェリーナ/バルセロナの夜/彼女はデリケート/誰かが君のドアを叩いている/奇妙な日々/ナポレオンフィッシュと泳ぐ日/また明日…/クリスマスタイム・イン・ブルー/ガラスのジェネレーション/情けない週末

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 妖精が舞い下りる

著者: 小川洋子
出版社: 角川書店 
サイズ: 文庫
ページ数: 246p
発行年: 1997年
価格: 540円
わたしの感想文】
美しいタイトルで最初は小説かと思っていましたが、エッセイでした。エッセイにもこのような小説かと思わせるようなタイトルがついています。エッセイとしては、後に出版された「深き心の底より」「犬のしっぽを撫でながら」があります。

このエッセイは小川洋子さんの最初のエッセイで、出版されたの
が1993年ですから、「妊娠カレンダー」出版の2年後となり
ます。このエッセイはわたしにとって、作家小川洋子を深く知りた
いとの願いをかなり叶えてくれました。
というのも小川洋子という作家がなぜ、あのような不思議な、そして透明な小説を書くのかずーと謎のままでした。作品そのものを読んでただ、その世界に浸っていれば良いのですが、作者本人が直接思いを語っているのを読むとより、一層理解が深まる気がします。

このエッセイでは、作家としての原点、自分の小説スタイル、影響を受けた作家(例えば、金井美恵子、村上春樹、川端康成など)、プライべートな話、そしてファンである、阪神タイガース、佐野元春のことが楽しく描かれている。気軽なところでは、わたしもファンであるので、「私の阪神タイガースカレンダー」の章が実に微笑ましく楽しく読ませていただきました。

さて、小川作品の底に流れる核心のことですが、次の二つの文章に集約されているような気がして、少し納得しました。
現実の細かい描写を通して、目には見えない世界を描き出す。
そして読者を現実の束縛から自由に解放し、現実の自分を見失うようなやや攻撃的な作品としたいという願いに思えます。

「作中人物が、自分の着ている喪服に思いを巡らせている。特別な関係にある男性の指を見つめている。その時、彼らの目に映るも服や指がどんな姿をしているのか、私はどうしてもこだわってします。彼らが物体の輪郭でなく、内面を見ようとしている時、その目に見えないはずの内面を何とか言葉にしようとする。つまり、私は見えないものを言葉で見ようとしているのだ。作家とは本当に、厄介な職業と思う。」

わたしは自分の小説の中で、読者が現実の枠に縛られた価値観や感情や論理から解き放たれ、不可思議で自由な世界を漂ってくれたらと思う。読み終わった時、読者がうまく現実に戻ってこれなくて立往生してしまうような小説、自分のいる場所があいまいに揺らいでしまうような小説を書きたいと思う。」
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

人が生まれながらに持つ純粋な哀しみ、生きることそのものの哀しみを心の奥から引き出すことが小説の役割りではないだろうか。書きたいと強く願った少女が成長しやがて母になり、芥川賞を受賞した日々を卒直にひたむきに綴り、作家の原点を明らかにしていく、珠玉の一冊。繊細な強さと静かなる情熱を合わせ持つ著者の、人と作品の全貌がみえてくる唯一のエッセイ集。

【目次】(「BOOK」データベースより)

私の文章修業/輪郭と空洞/小説の内側と外側/終わりのない小説/小説の向こう側/「冷めない紅茶」とあいまいさと編集者/作品を通して人とつきあう/小説を書きたくなる瞬間/「愛の生活」とわたしの関係/危うい気持ち悪さ〔ほか

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 犬のしっぽを撫でながら

著者: 小川洋子
出版社: 集英社 
サイズ: 単行本
ページ数: 221p
発行年: 2006年
価格: 1470円
わたしの感想文】
妖精が舞い下りる夜」、「深き心の底より」に続く小川洋子エッセイ集の最新作です。5章に分かれています。
 〇 数の不思議に魅せられて
 〇 「書くということ」
 〇 アンネ・フランクへの旅
 〇 犬や野球に振り回されて
 〇 家族と思い出

「数の不思議に魅せられて」の章では、数学の魅力と「博士の愛した数式」誕生の秘話などが紹介されていてそれ自体は面白くて興味深いのですが、他の小川作品、例えば「世にも美しき数学入門」と重複している内容も結構あります。

「書くということ」の章では、小川作品を深く知る上でとても参考になります。初期のエッセイ第1作「妖精が舞い下りる夜」でもよく理解できますが、作家デビュー以来の小説スタイル、例えば、「現実の細かい描写を通して、目には見えない世界を描いて読者を現実の束縛から自由に解放したい」というスタイルはずっと一貫していることが伺えます。

一番新鮮だったのは「アンネ・フランクへの旅」の章でした。何とこの章では紙のベースが白でなく、グリーンとなっています。グリーンだと目が疲れて読みにくかったのですが、アンネ・フランクへの特別な思い入れが良く伝わってきます。作家としての原点がこの「アンネ・フランクの日記」にあったようで、その日記はは世界中の人が知っています。しかし、小川さんがなぜ深い思い入れを抱くのか?その理由は、日記に書かれた彼女の姿があまりにリアルで生き生きして、彼女の息遣い、体温までも伝わってきて、自由への渇望、死の恐怖、大人への反発などの描写で、言葉の力強さに圧倒されたと言っています。

「犬や野球に振り回されて」と「家族と思い出」の章では、何気ない小川さんの日常生活、阪神タイガース、犬、家族、学生時代の思い出などが語られています。重い小川作品を読んだ後は、まあ、こういう軽い、息抜きの話を読むのも悪くないでしょう。
小川洋子さんは主婦でもあることがこの章でも改めて分かるのですが、あの不思議な小説が同じ人によって創り出されているのかと思うと、私にとってやはり謎です。
 【内容情報】(「BOOK」データベースより)

「博士の愛した数式」を巡る小川洋子の最新エッセイ集。

【目次】(「BOOK」データベースより)

『博士の愛した数式』を巡って/数学者と美しさについて/数の不思議を小説に/数学者の「正しい間違い」/天才数学者の悲しい恋/一本の線が照らす世界/数の整列の「おとぎ話」/才能救った少女の一言/有限の世界で味わう無限/孤高の美しさ貫く「素数」

 

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著者  : 小川洋子
出版社  : 幻冬舎 
サイズ  : 文庫
ページ数  : 249p
発行年  : 1998年
価格     : 520円

   
 【わたしの感想文】

 小川洋子作品のタイトルは、私はいつも気になるのですが、今回のホテル・アイリス、アイリスとは、日本語では花の「菖蒲、あやめ、カキツバタ」。菖蒲からは連想できない官能の香りがする作品、しかし、主人公の17才の少女は菖蒲のように美しく、清らかに映ることも事実。
しかし、”アイリス”のタイトルは実は小川さんがウィーンで出合った美しい女性ガイドさんの名前から取ったそうです。

ギリシャ神話では、女神ジュノーがとても可愛がっていた侍女アイリスに七色に輝くネックレスを贈り、大空を渡る栄誉を与え、アイリスは天上と地上を結ぷ虹の橋を渡り、使者をつとめたという伝説があります。これから私が勝手に想像するに、現実と幻想の美しき使者を連想します。

話のストーリは比較的わかりやすく、17才の少女と初老(老人と言っても良いくらい)の常識的には、異常な愛の物語。ホテル・アイリスに住み込みで働いている少女はいろいろな口実を作って、母親の目を盗んで初老の男に会いに行く。そして、二人だけの異常な愛が官能的な雰囲気を漂わせながら、物語が静かに進行していく。言葉、言葉に、くどい位のきめ細かい描写で想像をふらませてくれる。

少女がなぜ、このような愛に深くのめりこんでいくのか?
そのわけを知りたいと思ってもらうのが、作者小川洋子さんの本意ではないと思います。
ただただ、現実の世界や常識からちょっと解放されて、このような世界に浸っていればよいのよ!というような感じ。
確かに官能小説でしょうが、うす汚なさとか、不潔感、いやらしさが全く沸いてこなくて不思議。作家小川洋子の確かな筆致力のなせるワザでしょう。
 
【内容情報】(「BOOK」データベースより)

染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ出してくる…。少女と老人が共有したのは滑稽で淫靡な暗闇の密室そのものだった―芥川賞作家が描く究極のエロティシズム。

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プロフィール
HN:
つぶやき博士
性別:
男性
自己紹介:
何気なく本屋で手に取った本が「博士の愛した式」。以来小川作品の虜になる。小川ファンの9割は女性と思いますが、私はオトコ、しかも70才近くのおじいさんです。
みんなに嫌われる数学はわりと好きな理工系ですが、小説であれ、数学であれ、美しいモノには惹かれる今日この頃です。
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